「東京猫物語」

リラックス

kotakuo

いまこむと ［side ： 街］

今来むと　いひしばかりに　長月の
有明の月を　待ち出でつるかな

詠み人：素性法師 （古今和歌集より）


いまこむと　　［side ： 郷］

しぐ

後ろ姿

こんな後ろ姿をよく撮る。
そして、そのたびに、僕が歌舞伎町を訪ねるきっかけとなった1匹の猫を思い出す。

昔、もう15、6年前、TVで見た子。新宿 歌舞伎町の子、ジロー君。
ゴールデン街で多くの人間にかわいがられながら、いつしか区役所通りを越えて
歌舞伎町にまで進出し、ボス猫にまでのし上がった白黒の子。
僕は、ジロー君に会いたくて、朝の歌舞伎町を訪ねたんだ。

出会ったときのことを覚えている。
黒服さんの立つ裏通りから、いままさに、当時のメインストリート（猫たちの）だった
細い路地に入ろうとするところ。僕は彼の後ろ姿を追って、同じ路地へと飛び込んだ。

目の前を行くジロー君。濡れたコンクリート、遠く、細い、白い空。
僕は、どきどきしながら（当時、歌舞伎町の裏路地に踏み込むのには勇気がいった）
ときおり振り返りながらも、ゆっくりと、風格たっぷりに歩くボス猫ジロー君の、
先端あたりに指輪のような白い輪のある黒いしっぽを、その揺れるのを見ていた。
ずっと、ついて歩いたんだ、細い、長い、その路地を。

結局、見かけたのはたったの2回だった。
そのあと間もなく、ジロー君は姿を消してしまった。そんな噂をどこで聞いたろう。
でも確かに、二度とその輪っかのある尻尾を追う機会はなかった。

ジロー君と歩いた路地はいまもある。
だけど、いまはその路地に猫たちの姿はない。

ときどき、覗きこむ。
またいつか、できればここで...。



toruumeda

ココニイルコト

こちら　と　そちら
どちらも　いま　ここ

Satoru Suyama

行き詰まり

こういう狭い路地で猫に出会うと、
引くに引けず、進むに進めず。互いに探り合い、になることがままある。
幅員不足。
ほんのちょっと前に出ただけで、相手の逃走距離を侵してしまうから。

そんなときは、じっと待つ。
いつまでいるのかな？この人...って、顔に出るくらい。
で、ちょっと振り返ったりした隙に、
（耳の向きを確かめて）すっと、そばをすり抜けてみたりする。
僕「やりぃ！」猫「あっ！」
これが楽しい。

こんなことを、もう何年もやっている。
また遊ぼう（遊んで）ね。



toruumeda